6.まとめ
国公立大学の独立行政法人化が1年後に迫っていることもあり、TLOが次々と設立されている。
文部科学省の後押しもあり、多くの大学で知的財産本部という組織もつくられるであろう。
そうした背景において、特許事務所の業界では、
「(大学教授や大学といった)素人が発明者や出願人になるから、我々の業界もやりにくくなる。」
といった消極的な声を聞くことがある。
一方において、「残された最後のフロンティア」とばかりに、
大学に対する営業攻勢が活発化する傾向も感じられる。
一方、この分野の先進国=米国では、採算が合うのに7年から10年以上かかると言われ続けている。
現に、国や自治体からの補助金を除いて黒字を達成しているTLOは、
山本氏の率いる(株)CASTI(東京大学TLO)や、知恵と工夫の(有)山口ティーエルオーなど、
ごく僅かである。
承認TLOにおいては、3年程度で補助金がうち切られるなど経営環境が厳しくなるため、
TLO法試行直後に設立されたTLOは、既に経営面では転機にさしかかっているはずである。
株式会社や独立採算であるはずのTLOであるのに、
ビジネス的に極めて優れた発明に運良く出会うことを待っているような勘違いTLOや、
設立時の支援企業や国が何とかしてくれるだろうという危機感希薄TLOも、
残念ながら少なくないように感じている。
ジャーナリストの馬場錬成氏の言葉を借りれば、
「そもそもTLOの原資は、民間が受益者である限り民間資金で賄うべき」であるのに。
米国の前例が統計的に大きく外れていないとすれば、そうした統計を覆す手段は何なのか。
TLOを短期間で黒字運営に転換するにはどうしたらいいのか。
短期間に数をこなしてビジネス的に優れた発明に出会うチャンスを増やすことではないだろうか。
アソシエイト兼アスリートと呼ぶべきでないかと思うほど社長自らが走り回り、
「毎日が全力疾走」と笑顔で胸を張る山本氏。
そんな彼のような「情熱とフットワーク」という魂なくして、短期の黒字化は不可能なのだと思う。
そして、ライセンスアソシエイトをサポートすべき弁理士がその情熱に応えていかなければならない、
と感じるのは筆者だけではないと信じている。
「特許」に関わって仕事をしているという意味において、
そして「アソシエイト」という意味において同業者である山本氏や原氏に対して恥ずかしくないか。
彼らに会う度に、自分へ問い掛けることで、自分の中の感性を揺さぶってみている。
最近、あるセミナーで聞いた次の言葉が印象的であったので、紹介する。
世の中を機能させないもの、世の中の改革を阻むものは何か。
「諦め(resignation)、皮肉さ(cynicism)、インティグリティの欠如(non-integrity)の三つである」
ということである。
この分析が正しいかどうかは別にして、山本氏や原氏には、
諦めも皮肉さは微塵もなく、インティグリティに溢れている。
それどころか、諦めや皮肉さに充満した周りの人間を変えていくパワーに満ちている。
本稿が「同志」の情熱を呼び起こすきっかけのひとつとなることを願っている。
(投稿日:平成15年2月28日)
以上
※ 会員/平成14年度 日本弁理士会知的財産支援センター 第二事業部部長