(3)知財本部の知財マンは営業上手
産学連携について既に実績も伝統もある私立大学で産学連携の仕事をしている
知財マン達にお会いする機会がありました。
彼らは、底抜けに明るく、仕事ぶりもパワフルでフットワークも軽い。
睡眠時間をちゃんと確保されているのですか、と心配してしまうほどエネルギッシュでした。
お会いしてお話をしたのは短い時間でしたが、
明るいキャラクターが元来彼らに備わっていることだけが、
明るさの理由であるとは言い切れないように思いました。
明るいキャラクターがそのまま出せる環境が背後にあるはずであり、
大学の風土、環境は、一朝一夕にはできるはずがないからです。
彼らは、企業の知財部ではあまり見かけないタイプで、
企業であれば営業部門か商品企画部門のような感じでした。
彼らの一人は、2年前まで知財を全く知らない銀行マンだったとお聞きしました。
しかし仕事として彼らに接していれば、大学教員の発明が大きく育ったり、
連携先の企業での使い道が広がったりする可能性があるよう思えます。
道を切り拓く発明を成し遂げる或いは継続するには、「明るさ」は大きな武器になるからです。
知財という視点から物事を見る業界では、知財を育てるのは、
育てる対象となる知財そのもの(素材)を理解できる人材が必須、
ということばかり眼が向いているようです。
しかし、ビジネスの現場という視点から見れば、大事なのは「そのものを売り込む情熱」ではないか。
更には、分かりやすい説明とともに売り込む情熱を持った「営業マン」がいるかいないか、
という視点が欠けてはいまいか。
技術的に優れていることよりも、売れるか否かのほうが重要であるのは、
ビジネス界では常識です。
しかし、大学を中心とした技術移転、知財教育の現場では、まだまだ「素材の良さ」ばかりに偏り、
その素材の良さに関する分かりにくい説明を繰り返していないか。
素材の良さに関する説明やその素材を用いたビジネス提案が分かりやすければ
「こいつから買うことに後悔しない」と思わせることができる。
そんな営業マンこそが大事なのではないでしょうか。
とすれば、産学連携を推進させるには、
営業センスのある方に知財を身につけてもらう方が効果的なのではないか、と思います。
前述の彼らの所属する大学はきっと成功すると思います。
ただし、成功事例が出てそれがクローズアップされている頃には、
ビジネス界は一歩先へ進んでいるはずです。
一世代前の成功事例は、話としては面白いし、事後研究の題材にはなるでしょうが、
現場では役立たない。だからこそ、「営業センス」のある人材を集め、育てる仕掛けが、
大学に求められるべきと考えるのです。
さて、本題に戻ります。営業タイプの知財人材が成功事例を産み出し、
注目されるようになったら、「大学における知財本部の担当者(営業マン)向けの知財研修」
というテーマでの研修をして欲しい、という要請があるかもしれません。
そうした場合には、営業経験のある弁理士が適任となるでしょう。
すなわち、セミナー講師としての弁理士にも、技術者出身ばかりではなく
多様性が必要となるのだと予想されます。
なお、金沢工業大学や東京大学などでは、知財を題材とした「交渉学」といった演習が、
理工系学生のカリキュラムとして取り入れられています。
ライセンス交渉という最後の詰めの部分で失敗してしまったら
知的創造サイクルは機能しないわけですから、こうした実務演習は潜在的なニーズは高い。
ただし、こうした演習の講師が務まる方が弁理士会にどれだけいるでしょうか。