弁理士試験では、一次試験でも、二次試験でも、時々登場する審査基準ですが、
これは何物なのでしょうか?
単に、「よく出るところは覚えておきましょう!」で良いのかもしれません。
しかし、それでは納得できない、という方もいらっしゃるのではないかと思います。
そういう一人であった私が、私なりの理解を書いてみます。
(1)三権分立と審査基準
国会が法律を定め、行政がその法律を運用し、その運用を裁判所がチェックする、
というのが三権分立です。
しかし、法律というのは、どうしても抽象的にならざるを得ない。
全ての事象について疑義なく法律の文章を定めておくことは不可能だからです。
そのため、行政はその運用について、個別具体的な事例をこなしていかなければなりません。
その個別具体的な事例についての運用が間違っている場合には、
裁判所の判決によって軌道修正を言い渡されます。
さて、法律の運用を適用される国民としては、自分が関わる具体的な事例について、
どのように運用されるか予め知りたい訳です。
そこで、法律に則った(のっとった)行政による法解釈、法運用の基準を公開して欲しい、
という要請が出てくるわけです。
これが『審査基準』です。
行政による、一般国民に対するサービスの一環です。
(2)審査基準に疑義ある場合
審査基準に疑義があっても、基準そのものを争うことはできません。
個別具体的な事例について、審査基準のもとになっている法文の解釈およびその運用を
行政が誤ったという点を、裁判にて争うことになります。
さて、裁判にて行政(すなわち特許庁)が負けると、審査基準が改訂されるきっかけになります。
(3)三権分立の原則の例外(行政審判制度)
上記の(2)を見て、「あれ?」と思われた方、いらっしゃると思います。
拒絶査定がなされたら、拒絶査定不服審判にて争うのが先じゃないか、と。
拒絶査定というのは、行政庁たる特許庁審査官が、特許の審査という行政処分として行った行為です。
ですから、行政処分に関する不服は、行政事件訴訟として裁判で争うことが、三権分立の原則です。
しかし、特許庁などの専門官庁が行う行政行為についての違法性を、裁判所に持ってこられるよりは、行政庁の内部で裁判に類似した手続きで判断した方が合理的であろうということで、
三権分立の原則に一部分例外を設けたのです。
これが行政審判制度です。
(4)試験に審査基準が出るのか
弁理士試験は、法律の解釈を問われる試験ですから、
審査基準が直接問われることは、本来ないはずです。
しかし、「あの審査基準が出た」とか「審査基準の改定箇所をチェックせよ」といったことが、
受験生の間で話題になることがあります。
それは、最高裁判所の判決などをきっかけに審査基準が改定されたとすれば、
その改定後の基準は、法律の解釈に則った具体的運用を定めたことにほぼ等しい。
そのため、形を変えて問われるのです。
しかし、前述してきたことを踏まえずに、単に「審査基準には、こう書いてある」
ということを答案用紙に書いても、全く評価されません。
「該当条文をどのように解釈すれば、とある具体的な事例(出題の事例など)において合理的である、
と私は考える」というようにまとめなければ、
『法律の解釈』になっていないからです。