外に出ると、ビールで火照った肌を夜風が爽やかに撫でた。
「友達、欲しいんっすよ。」
酔っぱらった勢いだから言えたのか、どこかで言おうと決めていたのかは、
吐露した温志にも分からないのだろう。
しかし、その一言に、その場の一同、瞬時の切り返しが誰にもできなかった。
「おまえ、ここにいる俺たちが友達じゃないって言ってるのかよお?」
一瞬の間をおいて、テルさんが突っ込んだ。
「そうよ、そうよ、ひどいじゃない!」
間髪を入れず、紅一点のミーが茶化す。
「いや、俺たち、温志さんのお友達になれるような高貴な出じゃないじゃないっすか。」トシがボケる。
救われたぁ、とみんな思ったはず。空気、重くなりかけていたから。
またまた、一瞬の間。
この一瞬の間で考えたことは、皆同じだろう。
自分にも、友達がいるのだろうか、と。本当に必要な友達って、どんな奴なんだろう。
今、悩んでる深い深い暗闇を共有できるような友達・・・
「殴り合えるような、一緒に泣けるような友達が欲しいんっすよぉ。」
正直な男だなあ、温志って奴は・・・。
心の底に潜んでいた願望を代弁してもらった安堵感、同類相哀れむ気持ち。
口には出さねど、温志を除く皆が一瞬にして共有した。
吐き出した安心感が、温志の思考回路を断絶し、眠りに陥れた。
「こいつ、寝かしたら起きねえぞ。」
「いや、大丈夫。ここにいるみんな、友達としての証拠として殴ってやればいいんっすよ。」
気持ちよさそうに意識を失った温志の周りに、普段のペースの笑いが復活した。
メトロの駅までの道、梅雨入り前の副都心のビルの谷間に、細い月がいた。