たかが従業員、による訴状
(職務発明制度の理解のために)
2005年2月2日 作 2006年9月11日 改訂
【登場人物】
1.ムラナカ(村中修子)
二次電池メーカであるジャイアント工業(株)の元従業員。
現在は、ベンチャー企業の(株)ドラゴン製作所に勤務。
2.ナベツ(鍋津年太郎)
ジャイアント工業(株)の社長。
ジャイアント工業(株)の創業者=鍋津次郎の息子。
3.ハラ(原竜乃)
ジャイアント工業(株)の開発部長。 ムラナカの上司。
4.フルヤ(古谷敦多)
ムラナカの弁護士。 縁なし眼鏡がトレードマーク。
5.ホシノ(保篠勇二)
ジャイアント工業の弁理士。ムラナカの発明の特許出願を担当した。
【序章】
「たかが従業員が!」
ジャイアント工業株式会社の社長ナベツは、吐き捨てた。
ジャイアント工業は、未上場の中規模メーカであったが、
5年前に売り出した新型二次電池「プラチナックス」が大ヒットし、
経常利益がここ3年連続して50億円を上回るなど、急成長を遂げた会社である。
(もっとも昨年からライバル会社の成長などもあって、成長率は昨年からマイナスに転じた。)
「技術者として採用した従業員が、仕事として開発を担当していた。
その担当者が仕事として成果を上げただけのことじゃないか!」
「プラチナックス」は、リチウム電池の充電効率を格段に上昇させるとともに
充電時間がこれまでの約十分の一で済むという特殊な電極材料である。
プラチナ合金の一種で、製法が難しいために大手メーカでさえ、開発できなかったのだ。
ライバルメーカも数社あるが、ジャイアント工業の「プラチナックス」は
他社の製品に比べて品質が高い。
特許の明細書には記載されていない製造ノウハウがあるらしい、
というのは業界の定説である。
「プラチナックス」は、ジャイアント工業の女性技術者だったムラナカと
上司のハラによって開発された。
製法特許が5件成立しているが、初期の3件はムラナカが単独発明者になっている。
ムラナカは、ジャイアント工業の研究所にほど近い国立大学の理工学部応用化学科を卒業した。
親元から通える、という理由もあり、ジャイアント工業に就職した。
ジャイアント工業としても、
研究開発型の会社に咲く花となる女性エンジニアは歓迎ムードであった。
期待に胸躍らせて就職したであろうムラナカであったろうが、
ジャイアント工業は、彼女にとって居心地の良い職場とは言えなかった。