女性の技術者は、ジャイアント工業では創業以来二人目。
(大企業でも女性の技術者は多いとは言えないが。)
上司のハラも部下としての彼女をうまく使うのに苦心していたが、
段々面倒を見なくなった。
心の中では「女のくせに」という禁句を繰り返していたであろう。
入社4年目には結婚したが、退職するつもりがなかったムラナカの苦労は
相当なものだっただろう。
結婚を機に退職すると思っていたハラの態度は、
更に冷たいものとなったであろうことは、想像に難くない。
なお、ジャイアント工業のような 田舎の中小企業に、
ムラナカのような異端異能の技術者が在籍するというような事例は、
今後の日本においては増えるであろう。
少子化により、親元での就職を考える若者が増えると予想されるからだ。
さて、ジャイアント工業においては、通常3年目くらいから新人の教育担当を課せられるものだが、
ムラナカにはそれも与えられず、どの開発チームにも配属してもらえなかった。
理詰めで上司や同僚を説得し、それを疎まれた結果でもあった。孤独な毎日だった。
しかし、何が幸いするか、分からないものだ。
ほったらかしにされたムラナカは、上司や同僚に干渉されることなく
黙々と研究を続けることができた。
続けることができたのは、持ち前の反骨精神があってこそなのだが。
そしてついに、「プラチナックス」の実用化に目処をつけるところまでこぎ着けたのだ。