珍しく朝早い電車に乗ったので、座れるほどではないにしても、すいている。
眠いとはいえ、ちょっとした清々しさを通勤電車から感じるとは意外だった。
あれ?
目を引いたのは、自分には見慣れた、
そして通勤電車には馴染まない我々の業界の月刊誌だ。
読んでいるのは20代後半くらいの女性。
あの月刊誌を電車で広げている女性は初めて見た。
つい、顔から足先、持っている鞄までを見渡してしまう。
雑誌よりも一回り大きな鞄を膝の上に載せて熱心に読んでいる。
どこの会社につとめているのだろうか?
どんな記事を読んでいるのだろう。
だが、彼女に近づいて確かめるには、電車の混雑具合からして、不自然である。
立っている人がまばらな状態だからだ。
話しかけてみたい衝動を感じるほどではないのだが・・・
居眠りをしていた隣の男性が声を掛けた。あっ、夫婦なのか。
旦那はどんな仕事をしているのだろう?同じ業界なのかな?
嫉妬心、というほどでない・・・
じゃあ、彼女が振り向いてしまうほどの美人だったら嫉妬心を感じたのだろうか?
様々な想像が頭を巡る自分に気づき、苦笑いを噛み殺した。
彼女がどこで降りるか知りたい、という漠然とした思いに気づいたのは、
自分が降りる駅の手前で、電車が速度を落とし始め、
彼女が降りそうもないと感じた時だった。
駅から職場までの道のり。程なく始まる仕事はいつもと同じ・・・