「あれ? どうしたの?」
朝、駅までの道で、中学の同級生だった彼女に会った。
「うん、仕事始めたの。朝はこの時間に出れば間に合うから。」
結婚して退職、そして転居した彼女は、2年ほど前、
両親のいるこちらにマンションを購入して戻ってきたのだ。
子どもとご主人と一緒にスーパーで出くわしたのが半年ほど前だっただろうか。
「どこで、何してるの?」
「Y社の研究所がA駅の近くにあるの、知ってる? そこで。」
「ふーん、じゃあ研究職? 良かったね。」
彼女は、大学で化学を専攻し、食品メーカに勤務していたらしい。
Y社は薬品メーカだから、専攻を生かせたのだな、と短絡的に考えた。
「まあ、良かったのかな。」
決して歯切れの良い答えではなかった。
しかし、こんな短いやりとりで歯切れの良い答えが返ってきたら、
きっと違和感を感じたはずだ。
新卒の大学生が就職したんではない。
少なくない人生経験を積んでの再就職なのだ。
「香川君のほうはどうなの?」
「う?ん、相変わらず。あくせくしながら、月日が過ぎている感じ。」
こんな短い言葉に、自分の本音が出る。ちっとも落ち着いて考えていない。
つい、自分に関心が向いてしまった。
「ねえ、知ってる?竹島君、亡くなったんだってよ。」
「えっ? いつ?」
「去年の11月。胃ガンだったんだって。」
思わず、年齢を聞こうとした自分の馬鹿さ加減。
同級生なんだから、自分と同じ歳じゃないか・・・
彼女は、A駅で降りていった。元気そうに。
わざと元気そうに見せたのかもしれないな。
300人のうちの一人の同級生が死んだ。
世の中の確率からすれば、普通のことなのだろ、
などということが頭の中を巡った。
そんな客観報道のようなことしか浮かばないのは、
竹島君と特に親しい、ということはなかったからか?
高校生の頃、自分の子どもにろくな関心もない親たちに、
気楽さや諦めを感じた。
大人ってイヤだな
と、自分の中から切り捨てた。
しかし、今、そのイヤや大人に自分がなっているのではないのか・・・
そんなことを考え始めたら、気分が悪くなってきたので打ち切った。
打ち切る、という決心をする自分に嫌悪感を感じながら。