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◎依頼人という名の破壊者(2)

Z弁理士は、一瞬おいて、頭をフル回転させたが、考えがまとまらなかった。
「ひとまず、検討したいことがあるので、折り返しかけ直します。」
「急いで頼むよ。」

Z弁理士は、Q弁理士と相談した。
Q弁理士は、Z弁理士とともに共同特許事務所を設立したパートナーである。

「この出願をすることは、不正競争行為を助長することになるからまずいよね?」
電話口で思いついたことをZ弁理士は口にした。

「B店がそれなりに有名なら、4条1項10号か15号で拒絶される可能性もあるよね。」(*4)
Q弁理士は、冷静に判断を下しつつ、条文集をめくった。

「確かに。それに、仮に登録されたって、B店には、使用を継続できる権利が確保できるよね。」(*5)
「ってことは、A社が出願することに意味はないよ。」
「よし、じゃあ電話するか。」

「ただなぁ・・・」
「ん? 何だい?」
「出願すれば手数料が入ってくるのに、こういう正当なアドバイスをするとお金にならないんだよな・・・」
「確かに。変な仕事だよなあ。」

*4.商標法では、流通秩序を維持することを目的とする法律であるので、
未登録の商標であっても、長年使用されている商標と同一類似の商標を
他人が出願しても登録を受けられないように運用されている。

*5.未登録商標の存在を特許庁が確認できず、
他人の出願を登録してしまうような場合もある。
そのような場合でも、未登録商標の使用者は、
継続してその商標を使い続ける権利を得る(商標法32条)。