炭坑博物館のほかに目玉がないのでは、北海道のガイドブックに載っているはずもない。
その炭坑博物館に行くことができなかったのでは、行くところもない。
お昼の時間帯であったが、何かを食べたい、という気も起きなかったので、
のんびり写真でも撮りながら、空港方面に戻ることにした。
カーナビを千歳市のレンタカー基地に設定して走り出して間もなく、
「夕張メロン」の立て札のある八百屋さんに入ってみた。
もちろん、この季節にメロンがあるはずはないのだが、
この辺りで取れるであろう野菜でも買って送ろう、と考えたのだ。
「そうねえ、今は長芋の時期だから、長芋がいいよ。」
店のおばちゃんと常連客のおばちゃんらしき二人に勧められる。
長芋の他、タマネギ、ジャガイモ、人参などを段ボールに詰めてもらう。
どれも、100円、200円といったモノばかり。
「メロンの塩漬け」というパックを見つけて入れてもらおうとすると、
「それは、しょっぱいよ。(あまり勧めないよ、というニュアンス)」
商売っけがないのが気持ちいい。
「仕事で来たのかい?」
私は場違いなネクタイ姿、店の前には「わ」ナンバーの車である。
「いいえ、社会勉強と言いますか、色々と話題になってますから、夕張市が。」
咄嗟に答えたのだが、失礼なことを言ってしまっただろうか(冷汗)。
「そうかい、何もないところだからねえ。
こんなことになってから、ますます人が減っちまってねえ。」
その声は、ちっとも寂しそうな声ではなかった。
その声が、今回の夕張散策での一番の収穫であった。