S弁理士の事務所の電話が鳴った。
「あ、X社さん、どうもご無沙汰しております。
登録商標が無事に取得されて以来ですね。
どうされましたか?」
「どうされた、じゃないぞ!」
いきなり喧嘩口調である。
「その登録商標だが、取り消し審判、という通知が来ているんだ!
これはどういうことなんだ?」
「あの、登録された商標、お使いになっていなかったのですか?」
「使うも使わないも、こっちの自由だろうが!」
「あ、いえ、そうではないのです。
登録商標は、使っていないと、取り消されることがあるんです。」
「そんな説明、聞いていないぞ!
おまえの所の説明義務違反じゃないのか?」
S弁理士は困って、所長のT弁理士に電話を替わってもらった。
しかし、埒があかない。X社の担当者の怒りは収まらないらしい。
やっと電話が終わり、T弁理士も驚いた様子だった。
「30年、この仕事をしているが、商標取得時に、
使わなくては駄目ですよ、という説明をしなかった、とクレームがついたのは
初めての体験だ。」
S弁理士は、ため息をついた。
「これからは、こういう説明責任がついて回るのか・・・」