X社は、社会人用の教育コンテンツを作成する会社であり、A氏はその社長である。
A氏は、社内業務に必要なある事務機器を、事務機器の販売会社であるY社に発注し、
年度末の経理処理も終えていた。
しかし、なかなかその商品が暫く届かなかった。
年度末をまたぐ忙しさもあって、A氏自身も発注したことを忘れていたので、
一ヶ月ほど経過してからY社に問い合わせてみた。
すると、Y社の担当者Bは、
「済みません、受注処理ができていませんでした。」
との返事。
「X社としては、経理処理が終えているので、先月分の発注として請求書を発行してください。」
とお願いすると、
「申し訳ありませんが、Y社の社内コンプライアンス上、それはできません。」
との回答。
「おいおい、顧客への対応をおろそかにして『コンプライアンス』はないだろう?!」
A氏は苦言を呈した。しかし、B氏も苦しい立場にあるのだろう。
「申し訳ありません」を繰り返すだけで、譲ろうとはしない。
コンプライアンスを盾に、何か大事なことが置き去りにされていないか。
それは、コンプライアンスとして、本物ではないのでは?
A氏は考え込んでしまった。
B氏も考え込んでしまったのだろうか。
暫くして、A氏がY社に電話を掛けると、B氏は退職した、という。
なお、B氏の退職原因は「鬱病」であったが、Y社は個人情報保護というコンプライアンス上、
A氏がそのことを知ることはない。