「資格で商売できるおまえなんかに、
中学しか出てない経営者の気持ちが分からないんだろうよ!」
社長Aの激しい言葉をそばで聞いていた私は、
ビクッと震えてしまうのを抑えられなかった。
しかし、私の上司であるB弁護士は、こういう場面の経験が豊富なのか、
淡々と、続けた。
「社長様、せっかくの特許が無効となってしまうリスクがある、
ということを申し上げているのです。」
「うちの社員Cが考えたことは考えたが、
Cがいつまで、うちの会社にいるか、分からんじゃないか。
止めた後で、青色発光ダイオードのように訴えられたんじゃ、
かなわん、だから、発明者を私の名前にしておいてくれ、
と言ってるだけだろうが!」
特許明細書の作成を担当した私は、Cさんとの打合せを
何度も重ねてきた。
だから、発明者がCさんである、ということを疑いもしなかった。
私も駆け出しとはいえ弁理士の端くれとして、特許法に則った仕事をしたい。
出願原稿をチェックしていただく段階で、まさかこんなことになるとは
思わなかった。
「今回の特許出願は、米国でも特許を取ろうとしている重要な発明です。
米国は発明者が誰なのか、ということには極めて厳格なのです。」
A社長は激しやすいタイプなのか、B弁護士がどれほど穏やかに話しかけても、
もう耳に入らない様子だった。
私の頭の中には、「中学しか出ていない」というA社長のフレーズが
何度も繰り返されていた。