主人Aは、パンや食事に関する勉強に対してそれなりのどん欲さを持続しており、
都会まで勉強しに出かけていくこともしばしばでした。
また、そうした勉強をしに行くことで、パン屋を取り巻く環境が著しく変化していることにも
気づいていました。
パン職人に興味を持つ若者が急増し、専門学校から多くのパン職人の卵たちが卒業し、
都会ではパン屋もパン職人も飽和状態になりつつあることを肌で感じていたのです。
主人Aは、
「私のパン屋がある田舎町にも新しいパン屋ができて、
激戦が始まるのは、時間の問題だ!」
と危機感を募らせていました。
そして、
自分が喫茶店を併設していることは、決して無駄な投資、勉強ではない
と確信していました。
さて、パン職人Bが焼くパンを気に入っている常連さんの一人は、
隣町にあるX社の社員食堂の責任者Cさんです。
X社の社員食堂でパンを使うメニューの時には、半分近い確率で電話注文が入ります。
(全部を受けられないのは、X社の方針でしょう。)
パン職人Bは、X社のCさんとのパイプを太くすることが売上げアップの近道、
と考えており、
アフターファイブにCさんからの誘いがあれば、断ることをしませんでした。
「たまには経費で落とせる」と主人Aからは言われていたものの、
X社のCさんとの飲み食いの領収書をパン職人Bが主人Aのところに持っていくことは
滅多にありませんでした。