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◎封じられた怒りとその爆発

 まもなく23時。帰りの電車の中で、けたたましい着信音が響く。
音の主は、ヘッドホンをしていて、気付くのが遅い。
ようやく携帯電話をいじり始めるが、その着信音を止められない。
そのうち、掛けてきた相手が諦めたらしい。
きっと数秒のことだったのだろうが、随分長く感じた。

 二分と経たないうちに、また同じ着信音。
さっき掛けてきた相手がもう一度掛けてきたのだろう、と誰もが想像する。
またもや着信音は止められない。

   なんだよ、マナーモードへの切り替え方も知らないのかよ・・・

 そういう無言の視線を周囲から感じているであろう主は、50代半ばと思われる男性。
音にもめげずに眠っている酔客の客越しに、私はその男性をにらんだ。
視線に気付いた主は、私をにらみ返してきた。

   あんたが悪いんだろぉ? なんでにらみ返されなきゃいけないんだ。

 そう思ったものの、にらみ返すことは私にはできず、視線を落とす。
封じ込めようという彼の意図やその理不尽さによって、怒りが身震いに変わる。

 私の降りる駅が近づいたら、彼も降りる体制に入った。

   同じ駅じゃあ、休日に顔を合わせたりしたら大変だ・・・
   でも、こっちは何も悪いことはしてないのに、
   なぜこんな想いをしなくちゃならないんだ。

 そんな気持ちが、彼の背中を追いかけさせたのかもしれない。
交差点での信号待ち。 気付かれる心配のない距離を置いて彼の背中を見ていたら、
傾いた酔っぱらいの肩が彼の背中にぶつかった。
 ぶつけられた勢いでよろけた彼は、車道に飛び出した。直後に急ブレーキの音・・・

 あの酔っぱらい、私と彼の間に座っていたヤツだ、間違いない。

   (2013年3月作成)